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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(オ)1287号 判決

上告人

全逓信労働組合

右代表者中央執行委員長

森原三登

右訴訟代理人弁護士

山本博

平田辰雄

小池貞夫

金子光邦

被上告人

村上敏幸

被上告人

上田学

右両名訴訟代理人弁護士

加藤康夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山本博、同平田辰雄、同小池貞夫、同金子光邦の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件再登録申請をしなかつたことをもつて組合員資格を喪失したものとして取り扱うことは、実質において組合員資格の剥奪にほかならず、上告組合の規約において、組合員がその意思に反してその資格を喪失する事由として定めるのは、除名の制裁を受けたとき以外になく、したがつて、上告組合は右規約所定の除名の事由及びその手続によらないで組合員資格を剥奪することは許されないというべきであり、被上告人らは本件再登録申請をしなかつたことをもつて組合員資格を喪失したとすることはできないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官髙島益郎 裁判官角田禮次郎 裁判官大内恒夫 裁判官佐藤哲郎 裁判官四ツ谷巖)

上告代理人山本博、同平田辰雄、同小池貞夫、同金子光邦の上告理由

論旨 原判決は、上告人組合が組織紛争を収拾するための最後の手段として、組合員再登録申請書を提出しないときは組合員資格を喪失すると定めて再登録を実施し、申請書の提出を拒否した被上告人両名につき、組合員資格を喪失したものとして取扱うことは、規約に明文の根拠規定のない本件においては規約の解釈上許されないとした点において、規約の解釈あるいは適用を誤つた違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明かである。

一、問題点

原判決は、上告人組合が再登録を実施するに至つた経緯についても、又、その結果が折から進行中の団結破壊を喰止めるという目的からみて成功であつた事実についても、上告人の主張をほぼ全面的に認めた第一審判決の事実認定を全面的に引用しながら、それにも拘らず、上告人組合の規約に、再登録申請書の不提出を組合員資格の喪失事由と定めた明文の規定がなく、又、そのような内容の確立された慣習の存在も認められない以上、たとい「組合が組織的危機に直面するなど、非常緊急の場合」であつて、その危機を克服するために必要な最後の手段であつたとしても、統制権の発動として、再登録申請書を提出しなかつたときは組合員資格を失うという定めのある再登録を実施することは、規約によつて禁止されているものと解すべきであるという見解をとり、「控訴人組合が再登録申請書を提出期限内に提出しなかつた被控訴人両名につき、超規約的統制処分として組合員の資格を喪失したものとして取扱うことは許されない」と判示した。

確かに、上告人組合の規約上、組合員資格の喪失事由として明定されているのは、①退職、②死亡、③除名、④その他(任意脱退)の四種に限られ、又、除名を含む制裁の種類・手続等に関しては規約に明文の規定があつて、「以上のほかに組合員がいつたん取得した組合員資格を喪失する原因等について触れた規定は見当らない」こと及び「組合員の地位の保障も団結権に由来している」ことは、原判決の指摘するとおりである。

問題は、原判決のいうように、規約に明定された資格喪失事由以外の事由により、あるいは規約に明定された除名の手続以外の手続により、組合員資格を失わせることは、いかなる事情があつても、規約上絶対に許されないと解すべきかどうかである。

二、労働組合の統制権

1 およそすべての団体は、その組織の維持発展のために内部的統制を必要とするのであるから、その構成員に対し、何らかの程度の内部統制権と統制に違反した場合の制裁権とを有することは、判例・学説上広く認められているところである(蓼沼謙一「労働組合の統制力」労働法大系一巻二一三、四頁挙示の判例・学説)。

ましてや、「労働組合は、構成員各自に共同の事業に基づく財産的利益を均霑させる民法上の組合や、共同の事業から生ずる利益を構成員に分配する営利社団と異な」り、「構成員の――第一次的には使用者に対する――団体行動を本質目的とする団体であつて、この団体行動は、普通の団体にはみられない強度の構成員に対する統制を、したがつてまた統制違反に対する強度の制裁を、前提としてはじめて可能」なのであつて、憲法二八条は「労働組合を労働者としての団体行動のためにする組合員に対する統制組織としての本質において承認し」たものと解されている(蓼沼・前掲二一六、七頁)。組合員に対する統制組織たることを本質とする労働組合は、団結体としての統制を維持するために、一般の団体に比べてより強度の統制権(広義)を有し、広義の統制権は、①団結の目的に沿つて組合員を集団的に統制する権(制裁権と区別された意味での狭義の統制権)と②統制に違反した組合員に対する個別的な制裁権とから成るのである。

そして、労働組合の規約には、統制違反者に対する個別的な制裁については、制裁の種類・手続等に関する規定を設けるのが一般であるが、狭義の統制権の発動については、合目的性を第一義として動的な事態にその都度臨機応変に対処するほかなく、従つて採り得る手段をあらかじめ限定することが困難な執行業務ということの性質上、統制手段の種類・発動の要件・効果等一切規定を設けないのが普通である。

従つて、労働組合は、狭義の統制権に関し規約に明文の規定がなくても、統制権の発動として、団結の目的に沿つて組合員を集団的に統制すること、例えば、集団的な分派活動によつて組合の団結が危機に直面した際には、団結を守るために必要な限りにおいて、組合員に対し強制効果を伴う集団的な統制手段を発動して団結を強制することができることは当然であるといわなければならない。

2 この点に関し、原判決は、「仮に組合が組織的危機に直面するなど、非常緊急の場合に限り、団結権の維持強化のため、組合の規約に明文の定めがなくても、統制処分として組合員資格を喪失させることが可能であるとする見解に従うとしても、規約上統制処分として組合員資格喪失の方式に関する定めがある以上、これによらず右以外の方式に基づく統制処分により組合員資格を喪失させる措置をとりうると解することは、組合員の地位の保障もまた団結権に由来しているのであり、規約を潜脱した措置が超規約的統制処分と称して組合員の地位を保障した規約を空文化するおそれがあるので、これを肯認することはできない」と一般論を述べた上で、「これを本件についてみるに、控訴人組合の規約上、組合員がその意思に反して組合員資格を喪失する事由として定めるのは、除名の制裁を受けたときを除いてないのであるから、組合員は右規約に定める除名の事由及びその手続によらないで、その意に反して組合員たる資格を失うことはない」と判示した。

組合員の地位の保障が団結権に由来していることは原判決指摘のとおりであるが、しかし、その団結権は統制組織たることを本質とする労働組合に団結する権利であつて、組合の統制の枠外において組合員たる地位に止まり続けることまで保障する権利ではない。

そして、労働組合の統制権に基づく統制手段としては、団結の目的に沿つて組合員を集団的に統制するための手段(仮に積極的統制手段という)と、統制に違反した組合員に対する個別的な制裁(仮に消極的統制手段という)とがあり、両者は等しく統制権に基づくとはいつても、それぞれ性格・機能を異にし、一方の統制手段が必要なときに他方の統制手段をもつて代用することなどできるものではない。しかるに、原判決は、規約に消極的統制手段としての除名に関する規定のみあつて、積極的統制手段に関する規定がない場合には、団結の危機のさ中において、その危機を克服するための集団的組織対策としていかに必要であつても、将来に向つて統制に服しないときは組合員資格を喪失すると定めて、その強制効果によつて統制に服することを期待する内容の積極的統制手段を発動することは、規約上禁止されているものと解すべきであるというのである。組合としては消極的統制手段である除名をもつて右のような積極的統制手段の欠如を補うほかはないということになるのであるが、このような原判決の規約解釈は、統制組織たることを本質とする労働組合の積極的統制手段と消極的統制手段との区別を見落したものといわなければならない。規約に除名に関する明文の規定があつて、積極的統制手段に関する規定がない場合であつても、規約に明文の禁止規定がない限り、労働組合として、前述した内容の積極的統制手段を発動して、統制に従うことを拒否する組合員の資格を失わせることは可能な場合があるものといわなければならない。学説も、「組合員の行動によつて団結が危機にさらされている場合、団結はこの危機を回避するために必要にして適切なあらゆる統制手段をとりうるものと解すべく、規約上明文をもつて規定された統制手段にのみ拘束されるいわれはない。したがつて、規約に除名の規定がなくとも除名は可能であるし、また規約に除名に関する明文の規定があつても、これによらず、だが実質的には除名と同一の統制処分を行うことも、それ自体としては可能である」と認めている(横井芳弘「再登録と組合員資格」労働判例二五八号一〇頁)。

三、本件再登録

1 本件の場合、上告人組合が昭和四五年二月一七日付中央本部指令第二七号を発して実施した再登録は、支部組合員全員を対象として、同月二二日までに再登録申請書を提出させた上、提出した者について同月二三日から翌月二日までの間に組合員としての適格性を審査し、適格と判定された者のみを組合員として取扱い、これとは別に、再登録の直前の段階の統制手段として行われた団結署名活動において団結確認書を提出した者は、無審査で当然に組合員と認め、これらの組合員をもつて支部の再建を図ることとし、申請書を提出しなかつた者及び提出したが審査を拒否しあるいは審査において不適格と判定された者は組合員として認めないという内容の積極的統制手段である。

制裁としての除名は、もはや本人の意思によつて左右することのできない過去の行為を理由として、組合員資格を直接に剥奪することを内容とする消極的統制手段である。これに対し、本件再登録は、直接には、再登録申請書を提出し、さらに審査に応じて将来に向つて組合の統制に服する意思を表明すべき旨を命ずる積極的統制手段であつて、再登録の際の本人の意思如何に拘らず組合員資格を一方的に剥奪するものではない。

組合員資格の喪失は、組合員が申請書の提出を拒否したり、あるいは審査に応じないとか、応じても本件組織紛争に関して支部旧執行部支持の意見を表明するなどして、将来に向つて組合の統制に服する意思の表明を拒否した場合に、組合員本人のこのような行為を直接の原因として発生する間接的効果に過ぎない。支部旧執行部派の組合員であつても、再登録に応じ、将来に向つて組合の統制に服する意思を表明しさえすれば、後に制裁の問題が残ることは別として、再登録そのものによつて組合員資格を喪失することにはなつていなかつたのである。

2 そして、右に述べたような内容の再登録も、上告人組合は安易に実施したわけではない。上告人組合が再登録を実施するに至つた経過を、原判決の引用する第一審判決の事実認定をもとに略述すれば、次のとおりである。

(一) 上告人組合福岡県地区本部は昭和四〇年上告人組合第一七回全国大会で決定された「総対話・納得づくの運動、団交重視の闘い」という運動路線を積極的に推進してきたが、右地区本部の下部組織である福岡中央支部の当時の執行部は必ずしもこれに従おうとせず、そのため、昭和四二年、三年頃から両者の間に闘争戦術をめぐる意見の相違が拡大し、他方支部内においても、このような全国大会決定の方針に反する支部執行部の独善的な支部運営に対する不満から、昭和四三年暮頃福岡中央郵便局勤務の組合員約五〇名が「職場を明るくする会」という批判グループを結成し、前記全国大会決定の方針に従う立場から、支部執行部批判の活動を行うようになつた。

(二) 右のような事情を背景とし、昭和四四年一一月一二日丸山地区本部執行委員長と今永福岡中央支部長との間の、「明るくする会」対策には丸山委員長自ら当ることとし、支部執行部は手出しを差控えるという約束に反して、翌一三日朝支部執行部が「当局の飼犬に転落した組織を喰いつぶす“職場を明るくする会”を紛砕せよ!!」と題した「明るくする会」攻撃のビラを福岡中央郵便局及び福岡西郵便局内で組合員に配布したことを発端として、本件組織紛争が発生し、以後次のとおり上告人組合側の忍耐の限りを尽した組織対策にも拘らず組織紛争は激化の一途を辿ることになる。①まず、前記ビラ配布に対し、丸山地区委員長は即時中止を命じた。②これに不満な支部執行部の要求に応じて地区本部執行委員会は、一一月一五日の支部闘争委員会に地区書記長ほか一名の役員を出席させ、支部執行部の指導・説得に努めた。③右闘争委員会における支部執行部の釈明要求に対しては、地区は翌一六日頃「明るくする会」に関する調査を行つた上で、執行委員会決定をもつて一一月二〇日付逓福組一四号の指導文書を発し、前記釈明要求に答えると共に、支部執行部の組織運営の誤りが「明るくする会」発生の原因であることを指摘して、総対話・納得づくの運動の路線に立返つて組合民主主義を回復し、内部対立を克服するようにという指導を行つた。④しかるに、地区本部が執行委員会決定をもつて行つた右指導に対しても、支部執行部は従うどころか却つて反発し、一一月二二日付逓福中発六〇号の文書をもつて、地区執行委員会に対し重ねて釈明を要求した。これに対し、地区執行委員会は一一月二四日の支部闘争委員会に地区書記長ほか一名の役員を出席させて支部執行部の説得に努めたが、支部執行部は聞き入れず、あくまで前記指導の撤回を求めて譲らなかつた。指導の撤回など組織指導の原則からいつて論外であるが、撤回を拒否すれば支部組織の分裂という事態の発生も予想されたので、地区書記長らは心ならずも前記指導文書を一応保留する旨回答し、一一月二六日地区執行委員会において、逓福組一四号の指導の正しさを確認した上で、即日中央本部及び九州地方本部に事のてん末を報告して、指導を要請した。⑤中央本部は組織部担当の中央執行委員一名を即日福岡に派遣して調査に当らせ、二九日まで四日間の調査の結果に基づいて、一二月一日中央執行委員会決定をもつて、地区執行委員会及び支部執行委員会に対し、支部組織正常化のためのいわゆる本部指導九項目を発した。⑥支部執行部は同日指導九項目の伝達を受けた後、翌二日には地区・支部間でその実行方法に関する協議まで行つておきながら、翌三日今永支部長が支部役員二九名中、執行委員一名及び青年部常任委員一名を除く二七名全員の辞表を一括して丸山地区委員長に提出し、丸山委員長の長時間にわたる条理を尽した辞表撤回の説得に一応は再考を約したものの、翌四日正午までに辞表が撤回されたときは辞表の提出はなかつたことにするという丸山委員長の配慮にも拘らず、辞表の撤回を拒否して、支部にとつて重要な問題が山積している年末という重大時期に支部執行業務を投出すという無責任な行動に出たのである。そこで、中央執行委員会は一二月四日付指令第二二号を発して、地区執行委員会に対し、支部の再建と、支部の新執行部が成立するまでの間の支部執行業務の代行を命じた。⑦しかるに、支部旧執行部派は本部指令二二号による中央本部の組織対策に反対し、「反合理化労働者連絡協議会」と名乗る正体不明の団体名で、一二月五日頃から連日支部旧執行部支持・上部機関の指導非難のビラを支部組合員に配布して、本部指令第二二号に従つた地区執行委員会の諸活動に対抗したため、地区執行委員会の手不足という事情もあつて、支部の再建は思うように進まず、支部組合員の間に組合不信の念が増大しつつあつた。このような支部組織の混乱が九州地方本部傘下の各支部に及ぼす悪影響を憂慮した中央本部は、支部の旧執行部役員を含む全組合員の納得を得て早急に支部の組織を再建することが必要と判断して、昭和四五年一月七日頃中央執行委員七名位を福岡に派遣し、地区本部執行委員らと共に、支部組合員らに対する少人数の対話形式によるオルグを行つた。⑧しかし、右のオルグも支部旧執行部派の様々な妨害や反対運動に妨げられて、十分な効果を収めることができなかつた。そこで中央執行委員会は支部組合員を対象として、上告人組合員としての自覚を促すと共に、上告人組合の統制に従うことを拒否する者の範囲を確定するために、二月八日から一一日までの予定で、組合の統制に従つて行動する趣旨の文言を記載した団結確認書と題する書面に各組合員の署名を求めるいわゆる団結署名活動を行つた。⑨しかし、団結署名活動も支部旧執行部派の妨害や反対運動に妨げられ、期間を一六日まで延長して行つた結果も所期の成果を収めることはできなかつた。そこで、中央執行委員会はこのような集団的な分派活動による団結の危機に際し、団結を守るための組織対策として、1に述べたような内容の再登録を実施するに至つた。

3(一) 右に述べた経過からみて明らかなように、中央本部も地区本部も、支部旧執行部役員及びその同調者の排除などいささかも望まず、制裁の発動を極力自制して、もつぱら団結の回復を目的とする積極的統制手段による組織対策に終始し、組織紛争の収拾にできる限りの手を尽したのであるが、支部旧執行部派による分派活動のために事態は益々悪化を続け、上告人としては万策尽きたあげくに、支部再建のための最後の手段として、本件再登録に及んだのである。

このような場合の「再登録制度は、組合員に対し、一般的抽象的な団結忠誠の意思確認を求めるものではない。当該の組織的混乱時において具体的、個別的に形成されている団結意思――これが形成されていなければまた組織的混乱も発生しない――に服するかどうかの確認を求めるものである。

緊急時においては、規約上明文の規定がおかれているかどうかにかかわりなく、組合は団結維持のための Ultima-ratio としてかかる形式における統制権を行使できる」のであつて「かかる場合には、組合員は具体的・個別的に形成された団結意思に服する旨の意思を表明すべき義務を負う」ことは当然である(横井・前掲八頁)。

(二) ところで、再登録の直前の段階において、上告人組合が中央執行委員会決定をもつて実施したいわゆる団結署名活動は、支部組合員に対し、「私は全逓信労働組合の綱領、運動方針、全逓中央本部の組織指導九項目および指令第二二号を遵守し、組織の団結を固め闘うことを確認します」と記載された「団結確認書」と題する書面に署名して提出することを命じる内容の統制手段である。全逓組合員たる自覚を喚起することによつて団結の回復を図ると共に、あくまで分派活動を続ける者を識別して制裁手続開始の準備をする内容の統制措置である。この団結署名活動においては、団結確認書を提出しさえすれば、それ以上審査その他の措置は予定されていなかつたのであるが、すでに述べたような支部旧執行部派の分派活動の結果、当初予定した二月八日から一一日までの期間内に集め得た確認書の数は、福岡中央郵便局に限つていえば、同局勤務の組合員約五〇〇名のうち約二〇〇名に過ぎず、そのため期間を一六日まで延長して行つた署名活動の結果も約三〇〇名に止まつた。本件組織紛争のこの段階において、上告人組合が中央執行委員会決定をもつて実施した右のような内容の統制措置に従わないことは、明らかに除名に相当する重大な統制違反行為であるが、しかし、このような場合に、積極的統制手段を諦めて、福岡中央郵便局だけでも約二〇〇名もの多数の組合員を制裁に付して組合から排除することは、実際上不可能でもあれば、組織対策上不得策でもある。

そこで、上告人組合は制裁よりも団結の回復こそが必要かつ急務と考えて、本件再登録を実施したのであるから、再登録はその直前の段階において実施した団結署名活動に比し、統制手段としてより強力なものでなければならない。「私は全逓信労働組合の綱領、運動方針、全逓中央本部の組織指導九項目および指令第二二号を遵守し、組織の団結を固め闘うことを確認し、組合員の再登録を申請致します」と記載された「組合員再登録申請書」を提出させるだけのことなら、団結署名活動との違いは単なる呼び名の違いに過ぎない。

再登録が団結署名活動を上廻る統制力を発揮するためには、再登録という積極的統制手段自体において何らかの強制力を具えていることが必要である。そのための工夫として、上告人組合は、再登録において組合員が再登録申請書の提出を拒否したり、あるいは審査に応じないとか、応じても本件組織紛争に関して支部旧執行部支持の意見を表明するなどして、将来に向つて組合の統制に服する意思の表明を拒否した場合には、組合員資格を失うという定めを設けて再登録を実施したのである。

団結署名活動は、それ自体としては何の強制力もなく、後日発動されるかも知れない制裁という将来の不確実な不利益の強制力に期待するほかない統制手段であつて、これを実施した結果は、福岡中央郵便局においては、組合員約五〇〇名のうち約二〇〇名が最後まで署名に応じなかつたことについてはすでに述べた。これに対し、前述のような強制力を具えた再登録を実施した結果は、福岡中央郵便局において団結確認書を最後まで提出しなかつた約二〇〇名の組合員のうち八七名が別組合を結成して上告人組合から脱退したが、残りの約一一〇名は再登録申請書を提出して、上告人組合の統制下に復帰したのである。再登録が、結果においても、積極的統制手段として正しかつたことは明らかである。

4 以上の次第で、上告人組合が本件組織紛争の最終段階において、再登録申請書を提出しないときは組合員資格を失うと定めて再登録を実施し、再登録申請書の提出を拒否した被上告人両名につき、組合員資格を喪失したものとして取扱つた措置は、規約に明文の根拠規定がなくても、明文の禁止規定がない限り、労働組合の積極的統制手段として規約上当然に許されるものと解すべく、これと反対に、規約に明文の根拠規定がない限り規約上許されないと解することは、労働組合運動の常識に反する。

四、結論

してみれば、原判決は、上告人組合が再登録申請書を提出しないときは組合員資格を喪失すると定めて再登録を実施し、申請書の提出を拒否した被上告人両名につき、組合員資格を喪失したものとして取扱うことは、規約に明文の根拠規定のない本件においては、規約の解釈上許されないと判示した点において規約の解釈あるいは適用を誤つた違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

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